パスコンパスの日記

何か色々作るのが好きです

【めかとろろ】小説風番外短編・中学の頃の話

中学の頃の話

工作の手を止め窓の外に目を向けると、帰宅している生徒が目についた。この時間だから受験生か部活に属していない生徒かのどちらかだろう。

中学時代、八木山巡(めぐる)も帰宅部だった。これといってやりたいことがなかったのだ。そこはかとない無力感を感じながらも、高校でも部活には属さないつもりでいた。実際そうなっていただろう。この2人と出会わなかったら。そんなことを考えながら、隣に座っている同級生達へ目を移す。

「お めぐちゃん、私の工具さばきに見とれちゃった?」
目が合った椎名桐子(とうこ)が配線の被膜剥きの作業の手を止め、顔をこちらに向ける。長い髪がさらりと肩から流れ落ちた。

「いや、ちょっと中学の頃を思い出してて」
ぼーっとして心配させてしまっただろうか。少し慌てて答える。桐子はおどけている様に振る舞いながらも気を配る性格だ。メカトロ同好部のムードメーカーである。

「中学時代はお金がなかったけど今ならこっちのセンサを使った方が良いかな…」
電子部品の通販サイトとにらめっこをしながら、半田すずはぼそりとつぶやいた。同級生とは思えぬ知識と技術でこのメカトロ同好部を引っ張ってくれている彼女はいつも何かのものづくりに夢中になっている。

椎名の目が輝いた。「すずちゃん、どんな中学生だったの?」それは巡も気になっていた。一体どんな経験を経て今の彼女が生まれたのだろう。

「…」
残念なことに返事はなかった。つぶやきの主の思考は次のフェーズへと移り、選定した部品をどの様に組み合わせれば望んだ動きをさせられるかを何やらぶつぶつ唱えながら考えていた。この状態の邪魔をするのは気が引ける。もしかするとさっきも会話が成立したのは偶然で、ただの独り言だったのかもしれない。

桐子に目を向けるとウインクをしながら海外ドラマの様な大げさなジェスチャーで肩をすくめている。すずが集中して自分の世界に入ってしまうことは今までも度々あったため、2人共最近は慣れてきていた。

「椎名さんは部活とか入ってた?」質問の相手をそのまま発信者に返すのは無作法だろうか。昔のマンガにそんなセリフがあったと過去に桐子が言っていた気がする。中学帰宅部の私の話をしても面白くないので目をつぶってもらおう。

「何部に見える?」ニヤリと桐子の口角が上がる。質問に質問を質問で返された。質問返しについてはあまり気にしていない様だ。
「ピアノとか華道とか習ってそう」
「小学生の頃はやってたよ〜」
「運動部ではないと思うんだけど…」
「そこまでは合ってる!」

文化部となれば部活の候補は減ってくる。続けて推測する。

「うーん、文学部とか?」
「イイエ」
「美術部?」
「チョット近イ」

途中からスーパーAIロボットと化した桐子に質問を続ける。口元にかざしたハンディ扇風機が良い仕事をしている。

「映像研?」
「ハナレタ」
「あ、手芸部とか?」
「君ガ、チャンピオンダ!」

何のチャンピオンだろう?そんなことを思っていたら扇風機のトロフィーをうやうやしく手渡された。優勝の景品が「ロボットになること」だとしたら、とんだディストピアだ。

手芸部ダッタンダネ」今度は巡が声をロボット化させる番だ。
「細かい作業とか好きだからね〜」トロフィーを早速活用するチャンピオンに対し満面の笑みで出題者は答えた。

「めぐちゃんは何部だった?」
チクリと胸が痛む。
帰宅部だったよ」
「意外だ!」心底驚いた様子で桐子が目を見開く。
「めぐちゃん、絵うまいし美術部とかかなと思ってた」
勘が鋭い。絵は幼い頃は好きだったが、自分より優れた同級生を見かけてからはいつしか描かなくなっていたのだ。

巡の様子から何かを察したのか桐子はおどけた様子で 「まぁでもこれからはメカトロ部として天下取っちゃうもんね?」と、ボディビルの様なポーズでほとんど膨らんでいない力こぶをぺちぺち叩きながら微笑む。

「メカトロ部の天下って何なの」軽くツッコミながら巡は苦笑いをする。くだらないやり取りが心地良い。分かりやすいボケは桐子の十八番だ。「過去がどうあれ今からここで楽しくものづくりをしよう」という彼女なりのメッセージなのかもしれない。

そうだ。これから3人は自分の発案でこれから後光がさすリュックを作るのだ。受動的に娯楽を楽しむのも悪くないが、何か未知のものを作るということに得体の知れないワクワク感を抱いている。


下校を促すメロディが流れ、本日の部活の終わりが告げられた。まだ脳内でコードをこねくり回しているすずに声をかけると巡は部室の後片付けを始めた。

中学時代の無力感を最近は感じていない。更に言うと彼女自身はそれに気づいてすらいなかった。巡自身も次の工作のことで頭がいっぱいなのだ。季節は春から夏に変わろうとしていた。

あとがき

小学校の作文の授業以来小説なんて書いたことがなかったのですが、何だか勢いで書いてみました。拙くても問題ない初心者なので今は比較的無敵です。やれることはやってみましたが、もしかしたら読みにくいところがあるもしれません。すみません。

書こうと思ったきっかけは響け!ユーフォニアムという作品の原作小説を読んだら、アニメでは読み取れなかったモノローグの視点の描写がめちゃくちゃ良かったことでした。めかとろろのマンガも文字ベースでセリフのプロットを書いてからマンガに起こしていますが、読みやすさのためにセリフを短くしたり画力が表現したいことに追いついていなかったりするので違う表現をしてみたかったというのもあります。とはいえ文字でも無限に長くしていい訳ではないので2000字以内と決めて書きました。作業時間は色々直したりしつつ4〜5時間位だと思います。

4コマでないストーリーのマンガもいつか描きたいなぁと思っています。ただとにかくマンガを描くのには時間がかかるので、何とか効率をアップさせたいです。とはいえ絵をうまく描けるようになるには時間をかけないと無理だと思うので難しいですね。やりたいことが多すぎる。

読んで下さり、ありがとうございました!