最近リニアモータを作っています。 リニアモータといっても少し変わったものです。 一般的なXYステージのようにX軸・Y軸それぞれにモータやガイドを持つのではなく、 基板上の配線と磁石だけで平面上を移動できるのが特徴です。
去年位にも一回試作を作って挫折していたのですが 昨今のAIの発展具合を見てリベンジができそうとチャレンジしてみました。 特にKiCadデータを生成するスクリプトやファームウェアの作成ではAIをかなり活用しています。
最終的にはペンプロッタを作りたく、まだそこまでは完成していないのですが いったんここでまとめておこうと思います。 動作の様子は下記の様な形になります。
動画 X(旧Twitter)
でかい名刺4倍サイズのフレキ基板で平面XYステッパの動作確認ができました!!!
— パスコンパス (@pscmps) August 14, 2026
こちら、JLCPCB様にご支援いただきました!
ありがとうございます!
解説記事と基板のデータの方も追って公開予定です! pic.twitter.com/l2PgkRaa82
動画 YouTube ※↑が見れないとき用 内容同じです
支援に関して
こちらの記事でご紹介するリニアXYモータの名刺4倍サイズFPCの製造について、JLCPCB様よりご支援いただきました。 ご快諾してくださりありがとうございました!
名刺4倍サイズは値段が高いのでお試しで作ることはおすすめしませんが 50mm角の移動範囲のものはセール中であれば製造費約2USDで5枚製造できるのでおすすめです。 一番下に初めての方向けの簡易的な発注手順も記載したのでそちらもよろしければ。
日本語発注システム jlcpcb.com
英語発注システム jlcpcb.com
参考サイトと公開情報先
こちらの仕組みは私が0から考えた訳ではありません。 下記のサイトの構造や理論を参考にさせていただきました。
今回はこれらの公開されている事例を参考にしつつ、基板や生成スクリプト、制御系を新たに作成しました。 私自身も公開されている情報を参考にして製作できたため、今回作成した基板データやスクリプト、ファームウェアについてもGitHubで公開します。 ハードウェアはCERN-OHL-P-2.0、ソフトウェアはMIT Licenseで公開しています。
下記は今回私の方で作成したGitHubのページです。
解説
構造の概略
上のリンクのページがとても分かりやすいので概略の説明にとどめますが、 往復する配線に電流を流し、発生する磁場で磁石を引き付けて動かす仕組みになっています。
配線は上と下に2層あり、それぞれ直交しているためXY平面で動くことができます。 ステッピングモータに似た仕組みで各軸に対してA相B相があり半ピッチずれていて 交互に引き付けます。
作り方
今回、スクリプトでサイズを指定すると基板データを生成する様な形で用意しました。 スクリプトを実行する場合、KiCad 10は別途DLしていただく必要があるのでご注意ください。無料です。 GitHubより50mm角の移動範囲の製造用のデータも保存してあるのでそちらをそのまま注文いただくことも可能です。 詳しくはGitHubのページの説明をご覧ください。
フレキ基板
フレキ基板はデフォルトだと黄色になります。 反対側も透けて構造が分かりやすいです。 初回試作は50mm角の移動範囲のものを作りました。 厚さはざっくり0.1mm位でフレキシブルというだけあって柔らかいです。


今回ご支援いただいた名刺4倍サイズのものは シルクでイラストも載せたかったので基材が白いものを選びました。 シルクも黒色になるので線が見やすくきれいな仕上がりでした。 フレミングの左手の法則を「指の長い方から電・磁・力」と高校生の頃に覚えたことを思い出したのでそれを絵にしてみました。

KiCad10だとイメージコンバータからシルクや任意の層へ 画像を読み込めるので簡単です。 ただ、これはシンプルな私のミスなのですが部品名の文字列が襟の付近に残っていたのを見落としていました。 イラストを載せる場合は消すか目立たない位置にずらすのが良いと思います。

そういえば今回FPCを使っているのは、磁石と配線の距離をできるだけ近づけるためです。 電流により発生する磁力を利用する構造なので、基板が厚くなって磁石と銅配線の距離が離れるほど不利になります。 このフレキ基板の前に物理配線での試作も作ったのですが、下の相が磁石から遠くなりやはり力が弱くなってしまいました。 線径Φ0.65mmなので大したことがない距離に思われるかもしれませんが影響は思った以上に大きかったです。
厳密なことを言えばシルクのイラストもない方がいいのですが、載せたかったので載せてしまいました。 一応裏返せば完全にシルクがない状態で使用できます。

制御基板
今回、制御はラズピコ2Wを使ってみました。 理由は値段が比較的安くてGPIOがたくさんあるためです。 AIを使って作成しましたがUSBの位置を考えるとマイコンの向きが反対の方が良かったですね。 完成度の高い基板ではないと思うのですが、プロトタイプとして使用するにあたり動作が問題ないことは確認しています。

モータドライバ単体の基板も用意したので、そちらを使えばお好きなマイコンで使えます。

ファームや制御基板のデータもGitHubで公開しているのでご覧ください。 ちょっとリッチな構成ですが、電流を2A程度まで流せる様に1相につき1個のDRV8835の基板を使っています。
一点注意事項としては、XYそれぞれ電源を分けて供給するケースを想定しているため、電源供給がバラバラになっています。広いランドを短絡させることで両方同時に供給することができます。

↑ここです。
デバッグ方法
先日作ったPlotterFlowというWebサイトから動かせます。 Webシリアルの繋がるブラウザで接続し、設定のプロファイルで「Pico 2 DRV8835 XY Planar(開発中)」を選択します。 初期設定のパラメータ類はGitHubの説明を参考に調整してみてください。 最初はマイクロステップ無しのU1が良いと思います。 U4位で動けると動作がだいぶ滑らかになります。

JOG動作もできます。

シリアルで指令を送れれば動くはずなのでTeraTerm等でもOKです。 また、Pico2Wの場合はWebブラウザでアクセスしても動かせます。
必要な部品/工具
動作確認に必要な部品や工具は下記になります。
必須部品
- フレキ基板 x1 ※これがないと動かせない JLCPCBさんサイトで製造データ(Gerber ZIP)をドラッグ&ドロップし設定して注文可
- 制御基板 x1 ※ブレッドボード+ジャンパ線でもよい JLCPCBさんサイトで製造データ(Gerber ZIP)をドラッグ&ドロップし設定して注文可
- ネオジム磁石x4以上 ※100均Φ6mm
- Raspberry Pi Pico 2/2W x1 ※公開ファームをそのまま使う場合。モータドライバを別途制御すれば他のマイコンでも可
- 分割ロングピンソケット 1×42 (42P) x必要分 ※秋月 必要数はモータドライバ単体で使うか等で変わる 多めにあって困る部品ではない
- ピンヘッダー 1×40 (40P) x必要分 ※秋月 これも多めにあって困らない
- 配線 ※被覆線 基板との接続用
- DRV8835使用ステッピング&DCモータードライバーモジュール x4 ※秋月のブレイクアウトボード
- メタルクラッド抵抗 1Ω10W x4 ※50mm角版では必要。名刺4倍版では不要
- 電源 ※持っていない場合はDP100がコンパクトでおすすめ
あるとよい部品
- コンデンサ470μF/0.1μF x各2 ※なくても動くことを確認しているので別になくてもよい
- 熱収縮チューブ ※配線周りの短絡防止等
- 6P トグルスイッチ x4 ※タミヤのもの等 手動で各相が働いているかを確認したい場合はあると便利です そうでなければ不要です
必須工具
- はんだごて、はんだ ※DRV8835、ピンヘッダ等のはんだづけ用 鉛入りがはんだ付けしやすいのでおすすめ
あるとよい工具
- ニッパー ※配線カットやコンデンサの足カット等
- ワイヤストリッパ ※被覆むき カッタ等でも可(ただしめんどくさい)
Tips
ここでは細かい駆動時の注意や工夫点を書いておこうかなと思います。 プログラムや配線作成はAIにほぼお任せしたのですが、主に物理配線周りで苦労がありました。
電源に関して
安定化電源でのテストをおすすめします。 理由は電流制限が容易にできるためです。 今のところ短時間で2.5A位まで流して壊れていませんが 長時間流し続けると発熱も増すため注意が必要です。
私の環境では最大2A程度を目安に試していますが、 FPCや配線、ドライバの発熱を確認しながら徐々に電流を上げてみてください。 DRV8835はA/BのHブリッジを並列接続することで最大3Aの駆動に対応します。 連続して流せる電流は放熱条件等に依存するのでご注意ください。 理想的にはXY別系統で電源を用意してそれぞれ2A程度流せる方が動作が安定すると思います。
抵抗に関して
50mm角の基板の場合、配線が短いため直結の場合モータドライバから電流を流すことができないケースがあります。 おそらく短絡扱いされて保護回路が働いている様です。 その場合はメタルクラッド抵抗等、定格電力の高めの抵抗を配線に噛ませるとよいです。 私の場合は各相に1Ω10Wの抵抗を配線に噛ませたところ動くようになりました。 名刺4倍サイズの場合は配線長さがあるためテスタで測ると約4Ωあり、追加の抵抗は不要でした。
磁石に関して
磁石はダイソーやセリアで買えるΦ6mmの磁石を使います。 ダイソーが厚さ3mm、セリアが2mmで磁力の違いもありますが軽い方が有利かもしれません。 ちなみに私は今は大量に買ってしまったダイソーの方の磁石で動かしています。
また、磁石は4つ位くっつけた状態の方が動きやすいです。 1個だと、励磁の谷というかうまく動かない位置にハマってしまうことがあります。 動きやすい向きもあるので向きを変えつつ試してみてください。 逆に数が多すぎても摩擦が増えて動きづらくなるケースもありそうです。
超簡易動作確認に関して
6P トグルスイッチを使うと簡単に手動で電流の流す向きを切り替えられます。 半田付けは必須ですが、配線をワニ口クリップ等で繋ぎなおすより圧倒的にやりやすいのでおすすめです。 6ピンの中央端子にモータを繋いで電源をクロスで配線して切り替えるイメージです。

タミヤさんのページの図が分かりやすいと思います。
これを4個用意するとXYの各相についてスイッチでの切り替えで動作確認ができます。 手動の場合は各1相のみ励磁して他は全てOFFで確認するのがいいと思います。 理由は2本以上流すと電流が流れすぎてしまうのと、引き付けに対して邪魔をしてしまうためです。 そういった意味ではばねで中央に戻るタイプのトグルスイッチが最も用途に合います。 値段が高めですが、見つけたものの中では MS-500J-MF Yが電流も6Aまで流せて余裕があり 中点へばねで戻るので良さそうです。
中点に勝手に戻らなくても手動で戻せば問題はないです。
今後
現状はまだ磁石を動かせた段階でペンで描くところまではできていないのでその辺を調整していきたいです。 展示でお披露目したく、ターゲットは11月のNT名古屋かなと思っています。
結構構造や動きが面白いと思います。 あまり広く知られていないためか作っている人が多くない気がしたので公開してみました。 私も過去の作例を参考にさせていただいて作って楽しんでいるので、 更に色々な方が作って面白い用途が増えたりしたらいいなと思います。
ただこの構造は出せる力が小さいのでその辺は難しいですね。 最終的にはペンプロッタを作りたいと思っていますが、 磁場は距離が離れるほど弱くなりますしペンを動かすと磁石でインク跡を踏みつけてしまったり なかなか一筋縄でいかない印象です。 今の本命は名刺サイズ大の紙を磁石に載せて動かして、ペンは筆ペンで固定する案です。
読んで下さり、ありがとうございました!
おまけ:初めて基板を作りたい人向けの発注手順の解説
基板発注について、何だか難しそう…とハードルを感じる方もいるかもしれません。 今回の様にデータがすでにある場合、正直手順はかなり簡単です。 まずは作りたい製造ファイルを保存します。例として今回の50mm移動範囲のフレキ基板をDLします。
- 製造ファイルのDL
GitHubのページにアクセスしたら、右のほうにある下矢印のボタンを押してZIPファイルをDLします。


- 発注処理
下記のJLCPCBさんのサイトにアクセスし、右上の「サインイン」のボタンからアカウントを作成し「発注する」を選択します。
日本語発注システム jlcpcb.com
英語発注システム jlcpcb.com

「ガーバーファイルを追加」に先ほどのZIPファイルをドラッグ&ドロップします。

プレビュー画面が表示されます。

ここで必ず下のオプション選択欄で左から2番目の「フレキシブル」を選んでください。 正しく選べていると表示が黄色に変わります。

今回の用途であれば他のオプションは特に触らなくてOKです。 また、ドライバ基板、マイコン基板は「FR-4」のままで問題ありません。 その後はカートに保存を押して注文に必要な情報を入力して処理を進めればOKです。 配送会社は「OCS NEP」が安くておすすめです。 月3回までは特別オファーで送料もかなり安いと思います。

こちらのスクリーンショットの料金は2026/8/16現在の写真になります。 キャンペーンの有無、為替の関係等で料金は変動する可能性があります。

制御基板まで作らなくても 上述の手動切り替えで動作を確認することもできるので もしご興味がありましたらぜひ!
























